Naegi

逍遥

牛丼

去年、調子に乗ってこんな物語を書いた。

だから何、という話だが。

https://moekie.hatenablog.jp/entry/2019/05/05/022712

初夏の到来と炭酸のような淡い気持ちを描こうと試みた迷作。

今読み返すと、何これ?恥ずかしいみたいな気持ちになった。

頭にyogeeるとか失笑ものじゃん…

今回はその続編を書きます! (懲りない)

イタいってことは重々承知の上で書いてます。

 

 

もうじき初夏になる。暦の上の話。

部屋にいると全く持って季節を感じないのですが、来週の天気予報を見ると

どうやら25度を超えるそうで気温の変動についていけそうにない私です。

家は寒くて、春物も充分に着ていないのに夏!?という感じです。

カネコアヤノ氏の歌詞にあるように「夏が終わるころには全部が良くなる」と

信じている日々です。もういっそのこと9月入学にしてしまえばいいのに。

ーーー

牛丼を作るためにスーパーマーケットに買い出しに行く。

外に出ると思いのほか空気は温い。そういえば、もう5月に突入するのだと思い出す。

今年は4月が例年よりも寒くて、季節が巡ることを忘れていたが、

新緑はいよいよ輝きを増し、葉の色は日に日に深緑に近づいていた。

 

今年の5月は事情が違う。

新緑で美しい大学の銀杏通りに人影は見られない。

大学前には構内の立ち入りを禁止する看板が立てられているためだ。

例年、新緑が見られる時期には大学通りを散策するのが楽しみなのだが、

今年はそれが叶わない。

 

鬱屈とした気持ちを抑えて、5月の街を歩く。

暗い気持ちとは裏腹に、世界は5月の日差しを受けて明るく輝いている。

 

確かに5月だった。念のために羽織ったカーディガンのために

微かに汗ばんだことがこれを示している。

 

 

閑散とした商店街では有線が空虚に流れていた。

牛肉と卵を求めてスーパーマーケットに向かう。

 

子どもが店内を無邪気に駆け回っているのを見ると

スーパーさえも娯楽施設になってしまったように感じる。

この子供たちの傍を通りかかった老人は顔をしかめた。

気持ちは分からないでもないけど、こんな時こそ寛容でありたいと

言い聞かせる。

 

ビニールシート越しに会計を済ませ、無事に牛肉と卵を手に入れた。

外に出る前に消毒液を1プッシュした。

 

消毒液で濡れた手が、風に触れて少しひんやりした。

午後の日差しが柔らかい。

何となく帰宅したくなくて遠回りして帰ることにした。

 

ちょうど商店街を後にする直前、有線から聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。

思わず口ずさむ。「牛丼 牛丼 牛丼 牛丼……」と。

勿論、この歌詞は空耳なのである。

you know you know  you knowと言っているらしいのだが、

どうも牛丼に聴こえてならないのである。

 

その曲はYogeeの「CAN YOU FEEL IT」だった。

去年、この曲を聴いて牛丼を食べたい衝動に突き動かれて

牛丼チェーンまで駆けた記憶が残っている。

あの頃は10連休だったんだっけ…と過去に対する甘い観賞の気持ちと

淋しいこの頃と去年を比較して悲しむ気持ちが交錯する。

 

そういえば、牛丼チェーンで嬉しい出会いがあったような…気がしないでもない。

何だっけ、あれ。手がかりを探し出すように、急いで牛丼チェーンの方向に引き返す。

 

店の前には「テイクアウトのみ営業中」と張り紙が張られていた。

 

思い出した。

Tシャツにカーキの青年との邂逅を果たしたんだった。

懐かしい。

最近はどう過ごしているんだろうなと気になった。

というのも、SNSの類を一切やっておらず、授業で会わなければ

それで終わりだからだ。

 

一緒に街に繰り出そう、という青臭いLINEを送った気がしなくもないが

私が適当なスタンプを押してそれっきりだった。

今や繰り出す街もない中で彼は何をしているのだろうか。

 

さすがに今年は牛丼店で出くわすことは無かった。

しかし、私は材料を揃えたのにも関わらず、牛丼をテイクアウトしたい衝動が

湧いてきたのだった。

気づけば、牛丼を買っていた。

香ばしい匂いに包まれて、牛丼と共に帰宅する。

 

商店街を通り抜け、住宅地を進む。

各方面から子どもたちの声が聞こえる。

塞ぎこまないように、彼らはそうやってエネルギーを発散しているのだ。

この子たちは日中は友達と遊び、日が沈んだ後は帰るべき家に帰る。

そうやって毎日が過ぎていくのだと思うと子どもたちを羨んでしまう。

それに比べて私は1人。今日、牛丼を買ってしまったようにかなり自分の欲望に

忠実に生きられる自由こそあれ、私は孤独なのだ。

実家暮らしだったら…と現実を仮想してみるが、虚しくなるばかりでやめた。

 

なんだか悲しくなってしまったので、さっきの歌を鼻歌で歌った。

 

「元気か?」

いきなり声を掛けられた。

1か月ほど人に会ってなかったものだから声の出し方を忘れていたので

私は狼狽した。

 

「はい、元気です」

朝の健康観察のような返事をしてしまった。

ソーシャル・ディスタンスを保ってなのか、相手は一向に近づいてこない。

 

近眼のため、良く見えなかったが多分1年前と同じ青年なのだ。

「美味しそうな牛丼、持ってんじゃん」

「実は作ろうと思ったのにいつの間にかテイクアウトしてた」

「またYogeeに引き寄せられたのか、奇遇だな」

「え」

「その実、僕も牛丼をテイクアウトしたんだよ、有線に惹かれて」

「一緒だ…」

 

3メートルほど離れて繰り広げられた会話だが、

心を温めるには十分な距離だった。

 

「最近どう?ステイホーム、楽しんでる?」

「楽しんでるよ、ステイチューンならぬステイホームね!」

「うちで踊ってる?」

「騒音が気になるから踊ってない」

はっとした。

私は最近踊っていないのだ。

 

ダンスフロアはとうの昔に閉鎖され、最近は心ゆくまで踊っていない。

音に身を委ねて踊るという行為でいかに救われていたかを思い知る。

 

ワンルームもダンスフロアってこと、忘れんなよ。じゃあ、また授業始まったらな」

と言って彼は去っていった。

 

そういえばPerfumeワンルームディスコっていう曲があったような…

小学生の時よく聴いていたような気がする。

そう、ワンルームはディスコになるのだ。

普通のディスコよりも狭いのもご愛敬っていう感じか。

 

 

帰宅後、シャワーを浴び、牛丼を食べる。

久しぶりに食べた牛丼は高級牛のステーキに匹敵するほどの美味しさだった。

買ってきた牛肉はビーフストロガノフとして明日以降使おう。

 

ワンルームはダンスフロアってこと、忘れんなよ」

この言葉を反芻する。

窮屈なワンルーム暮らしだが、ダンスフロアに変えることも可能なのだ。

 

今日は満月だ。カーテンを開け、月光のほかの灯りは消した。

スマホからBluetoothで音楽を飛ばす。

満月に合わせてYogeeのto the moonを聴きながら揺れる。

 

月へ直滑降さ!というリリックが心地よくて

眠りそうになる。

 

ひとしきり踊った後、LINEを見ると

「今日こそはto the moon」

「月に行きたい」

というメッセージが彼から来た。

 

繰り出したい場所である街には繰り出せなくなった。

どこにもない場所に対して心の中で恋焦がれている。

そこが月なのだ。

 

「私も」

と手短に返した。

 

先の見えない世の中にも光はある。

その光を大切に抱きしめながら、これからの日々を生きていこう。

 

窓の外で煌々と輝いている月を見ながらそう決意した。

 

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文字を打ちながらボーイミーツガールものにありがちな

ご都合主義に笑ってしまった。

まーた変な物語が出来てしまったよ(^-^)

 

ブログの後半は毎度御馴染みの宣伝タイムです。

 


Yogee New Waves / CAN YOU FEEL IT (Official MV)

 


Yogee New Waves - to the moon (Official MV)

 

最近のマイブームはこれ聴きながらあつ森すること。

マイデザインでyogeeのロゴ作った。

角館さんの声が大好きです~~涙