Naegi

逍遥

眠れない夜に 再

「あなたは末吉」

私のために御籤を引いてくれたという

母親からのメッセージだった。

どうやら私の運は吉の中でも最低らしい。

 

「これからいい事あるって書いてあるよ」

「ただ、今は大変かもね」

 

ふーん、と聞き流す。

 

改めて御籤の写真を見ると

軒並みいいことばかり書かれていた。

 

 

今を耐え抜けば吉、とのこと。

願い事も叶うとのこと。少し時間は必要らしいけど。

 

願望……?となったがテストから開放されること自体が願い事なので

当然叶うか、と腑に落ちる。

 

 

テスト終わったらやりたいことを紙に書き出したら止まらなかった。

 

まずは髪を切ってアッシュグリーンに染める。

短くしたからにはゴツめのイヤリング買って

(お洒落な音楽イベントに出没するタイプの若い女性は往々にしてこのような見た目をしている)

両親に成人のプレゼントを買って手紙を書き、

見たい映画を見に街に出る。

欲しい本を読む。研究のための本を借りに

遠くの図書後までに出向く。

ライブに行く。

エッセイを書く、小説を書く。

旅に出る……のは無理そう。

暫く実家には帰らないけど次の帰省の際はベースの練習でもしてみようか。

 

 

 

このリストを勉強机の前に貼った。

 

そしたテスト勉強の逃避に、未来の自分へ手紙を書いてみたりもした。

 

元気ですか?相変わらず趣味はありますか?

どこに住んでますか?

……など在り来りな質問を20個書いた。

 

 

25を過ぎたら人生をよりリアルに捉えるようになるといい、みんな地に足をつけ始める。

 

さて10年後の自分はどうなっているのだろうか?

全く予想できない。

 

5年前の手紙には

ポケモン好きのままでいてください、

黒髪、薄めのメイクでいてください、

大学で友達作ってくださいと記されていたが

最後の項目だけは想像よりも沢山出来てるよ、と報告したい。

正直ポケモンにはそこまでのめり込まなかったし、

黒髪で薄いメイクが許されるのは美人だけよ……という言葉は飲み込んでおこう。

アッシュにしたはずの髪の毛はほぼ茶色だ。

ーー

 

風の吹き荒れる今日、また眠れない夜がやってきた。いや、寝ようとしないだけなんですけども。

 

ーー

 

先週の水曜日、詳しい事情は忘れたが恐らく英語の実力不足、準備不足に落ち込んだ。

専門の演習だったっけ。それに加えていろいろ失敗を重ねていたから余計に悲しかった。

 

 

もう全部投げ出してしまえ、と暴力的に投げやりになった。

逃避行しやるぞ、と逃げ込んだ構内のベンチに腰掛けて泣いていた。

 

視界がぐちゃぐちゃになってどうしようもなかった。

空はどんより曇り空。

その時ばかりは救いのない世界だった。

 

すると、隣に手を繋いだカップルが座った。

「ねえねえ、このままずっと手を繋ごう♡」

「え、恥ずかしい、他に人いるじゃん」

「えーー」

 

甘ったるい言葉は私の胃に受け付けなかった。

私のせいでコイツらは手を繋げ続けられないのか

とちょっぴりいい気味だったが、それと同時に申し訳なさを感じた。

 

こんな悲劇ぶった奴が隣に居合わせてもいいのか?

この人たちは恋愛ドラマの主人公なのに?

全く世界の枠組みが違うじゃん!、と? 、、

 

三者から見ると非常に滑稽な場面である。

私は落ち込んでいるという状態に妙な心地良さを感じ、カップルはお互いの好意を存分に伝えあって心地良さを感じている。

 

同じ場所にいながらも見えている世界は全く違うのだ。

 

カップルが去ってから笑いが止まらなかった、

自分の悩みがバカバカしく思えた。

なんで私はちっぽけな事で落ち込んでるんだろう、私もあの人たちのように気楽に生きよう、と。

 

人生はやっぱり喜劇かもしれない。

チャップリン

近寄れば悲しく離れれば楽しく見える、とは

正しくこれである。

 

 

林檎さんの声で再生されるんですけどね笑

人生は夢だらけ、を聴いて何度励まされたことか、

そしてこれからも頑張ろ〜

 

はよテスト終われ!!!!!