Naegi

逍遥

3月の北海道

引越しは、自らを解体する行為のようである。部屋と自己はやはり、繋がっている。壁掛けやポストカードを仕舞うたびに、心の奥底が冷えていく感じがする。自分の家なのに、自分の家と思えない。かつての暖かさはとうの昔に失われてしまったようだ。

 

引越しの荷造りと旅行のパッキングを同時進行で行い、憂鬱になりながらも北に行く準備を整えた。 

 

この地から北国に行くのは3回目。よく考えてみれば、北にばかり行っている。幼少期、親に連れられ、足繁く行っていたのだから、三つ子の魂百までということなのだろうか。亜寒帯の植物を求めてブラキストン線を越えたのである。


飛行機に乗る。離陸直後に地表を見下ろすと、自宅や大学が見える。


擬似的な別れ。どんどん街は遠ざかり、飛行機は方向を変え、雲の世界へと移り変わる。雲を抜けると、突き抜けたような青空が広がっていた。雲は氷の塊のようにもみえ、飛行機はあたかも流氷粉砕船のようであった。

 


こうやって、大学とも別れを迎えるのだろう。なんとも寂しく、心の置き場所が見当たらない。6年という年月がずっしりと響く。

 

スマホの奥に仕舞い込まれた記録を発掘し、刷新する試み。きっと、札幌も暖かくなってきた頃合いでしょう。札幌の雪はとうの昔に溶けたのだろう。まぁ、山の方の雪はまだ残っていることだし、旅行の記録に締切なんてないのだから。

 

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飛行機が着陸の体制に入り、雪原が見える。黒々とした針葉樹林に心が弾む。今回の旅の目的は、北方の植物と雪のコントラストを楽しむこと。着陸早々、目標を達成する。

 

札幌駅周辺でお腹を満たす。道に迷ったり手袋を落としたりして、札幌駅に留まる。周りを見渡せば、帽子も手袋も着用しない市民ばかりで、少し恥いるどうやら厚着をしているのが観光客で、札幌市民は違いをすぐ見分けられるらしい。

 

しかし、わたしは観光客然としながら、市民の集う前田森林公園へ。北海道出身者や北大の人に森林公園に行った話をすると、「道外の人がそこに行くの?」というような反応が返ってくる。確かに、歩いている人たちは犬を連れた市民ばかりだった。

 


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公園は私が望んでいた光景を見せてくれた。北海道の大きな公園は良い。夏に行ったモエレ沼公園もなかなか良かった。

 

…これらの公園は人造であることを踏まえると、本来の北方植物を鑑賞できているかどうかは不明だが。

 

前田森林公園は西洋式庭園で、ポプラ並木と手稲山コントラストで知られる。冬季はクロスカントリーを楽しめる。


ガイドブック的な説明は、もうやめよう。

私は…犬と一緒に雪の中で足踏みをする。楽しい。雪のザクザクいう音と、しんと静まり返った空気。途中、太陽が差し込み眩しかった。北国の晴れ間はありがたがられるという。眩しさしか覚えない私は、北国の暮らしを知らないのだ。

 

手稲から白い恋人パークに行くも、工場エリアは閉まっていた。そこから南下し、すすきのに向かい、札幌在住の友人と合流した。綺麗なコースだね、と褒められた。確かに綺麗に南下できた。

すすきのには、ミニスカートの女性が大勢いた。

寒くないのか。寒さに慣れれば大丈夫らしい。

本当なのだろうか。

 

前田森林公園から帰る時の、風景がよかった。寒々しい川の後方には手稲山が聳え立つ!

トラックばかりが通り過ぎる道。一人でここまで来てしまった。バスが来なかったらどうしよう。この孤独が旅の醍醐味でもある。バスは、砂漠を彷徨った時の、キャラバン隊のようであった。

「このまま君を連れて行くよ 手稲手稲手稲に〜」というくだらない、新・宝島をも思い描きながら。

2日目はウポポイへ。

何かと批判の多い施設である。博物館として評価するならば、という前提のもとでは別稿を要するだろう。

 

が、今回は一人のツーリストとして思い出を書き記そう。博物館から見渡す湖が美しかった。


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イランカラプ(小文字)テ。

JR北海道のアナウンスでも聞くアイヌ語を何度も聞く。

 

プの時は口を開かず、つまり母音を発音せず子音だけ発音するようだ。アイヌの伝統衣装を羽織り、記念撮影。なんというか、文化をライトに扱っている気もしてしまった。

 

後日、みんぱくに向かい、アイヌの暮らしを体系的に学ぶ。文化の盗用、と言われないように。軽々しく相手の領域に踏み入れたくない。

高校の現代文の授業で読んだ、今福龍太の文章を思い出す。プリミティブさを不躾に礼賛する西洋の観光客と原住民の写真がずっと脳裏に残っている。民族衣装を着る時、この光景を思い出してしまい、どう振る舞うべきか迷ってしまう。

 

 

そういえば、アイヌ口琴ムックリというらしい。ポケモンムックルって、ムクドリムックリを掛けているのかも?と気づく。ポケモンのネーミングはすごいな。

 

3日目。北海道近代美術館でアイヌアートを見る。

 

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敷地内の雪を踏みしめる。ちょうど保育園児が歩いていた。そうか、雪国では雪原が遊び場なのか!と気づき、嬉しくなる。

 

駆け足で巡ったのが惜しまれるな。

 

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駆け足の理由は、藻岩山に登って北海道神宮に行く予定があったから。円山で美味しいカレーを流し込み(ゆっくり食べたかったが)、藻岩山を駆け上がる。藻岩山の山麓には、寺院が広がっていた。

 

雪の街を見る!目標達成!

曇り、雪、晴れの三つ巴。気候に恵まれた

 

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晴れ空の下、円山公園を散策する。

針葉樹の森を散策することが目標だった!  

 

飛行機の時間が迫っていたので、駆け足で札幌駅に戻る。3日目はとにかく走っていた!!

 

北海道は良い。

人智を超えた自然に迫ることができるから。

今回は札幌近郊に絞ったけれど、その自然の大きさは札幌まで及んでいるように思えた。

 

そして、北海道旅行から帰ると夥しい段ボールの箱の中で寝ることになるのであった。間隙を縫って、みんぱくに行き、北海道旅行の復習をできたのは良かったかもしれない。なかなか行けないから。

 

気候は初夏になろうとしている。ゴールデンウィークも終わる。次はどこへ旅をしようか?と考える前に、日々の労働へと向かってゆくのである。