かつて2年半ほど、吹奏楽部に所属していた私の記憶が蘇るような曲だった。
若々しくも、痛切なあの感情。
少なくとも、引退した後にはあの類の感情は感じたことはないかもしれない。
まだ未熟な中学生が、数十人単位で音楽室という密室に閉じ込められるのは、なかなか酷なことだった。
厳しい後輩指導、悪口。
顧問の理不尽な指導。
あらゆるものが当時の感覚で読みがえってきた。
ある意味で、アルヴァマーは恐ろしい曲だ。
…とはいえ、もう中学時代に対する怨嗟を述べるのも飽きてきた。
戻りたくはないけれど、たしかにあの時期の辛い出来事は今の私を根幹をなしていると思う。
たとえば、ゼミで厳しい論文指導を受けた時、私は案外平気だった。
同期と比較して、一番出来が悪かったのに。
音楽教師に、吊し上げられたあの日々を思い出す。
あれに比べれば、プレッシャーも小さかった。
部活での失敗=全生活での失敗だったあの頃は、本当に必死だったのかもしれない。
学部2年生の時、私はアルバイト先、学生団体、学部の友人グループ…というように複数コミュニティを行き来していた。
ひとつでのコミュニティでの失敗は、小さな失敗である。これだけで全生活は脅かされなかった。
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響けユーフォニアムという作品は、部活が個人を支配するくだりをうまく描いていると思う。
友人、恋人。あらゆる人間関係が、部活の上で展開される。部活での事件は、生活をゆるがすものになる。
だからこそ、あの作品群は苦しい。
先輩を強く慕う後輩。ソロを奪い合う先輩と後輩。
吹奏楽部を経験した人は、あの類の苦しさを経験している人が多いのではないか。
譜面に書かれた「絶対金賞!」の文字は、当時の空気をリアルに引き戻してくれる。
書き込まれ尽くした譜面と向き合う私。
チューニング。
あらゆるものが、10年の時を経ても蘇る。
あの夏の経験は、苦しくもあり、また熱くもあったのである。
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夏のコンクールが終わったあと、私は家族旅行に出かけた。中沢けいの『楽隊のうさぎ』を機内で読んだ。
そんな光景が思い出されるのは、私の熱が残存しているからなのかもしれない。