ふだん、私は「あなた」という言葉を使うことはない。おそらく二人称全般を使うことがないのかと思う。
グレゴリー・ケズナジャット『鴨川ランナー』では「きみ」という二人称で描かれる語りが展開される。日本に来たアメリカ人の物語。劇的な展開もなく、語りにも感情はほとんど見受けられない。淡々と進む物語。たぶんきっと、「きみ」という二人称は、他者としてみなされるガイコクジン像を映し出しているのだろう。わたしはわたしで、きみはきみ。そこには太い境界線が惹かれている。
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二人称はなにかと、不躾な感じがしてしまって(これはわたしの印象論に過ぎない…)うまく使えない。
きみ。
おまえ。
あんた。
あなた。
わたしの人間関係において、二人称はふさわしくないからだ、と思う。
ー
ノートに走り書きをする。
あんたに言葉を届けたいから、私は文を書いてるんだよ
と。
思いつくままに筆を走らせていただけだが、この言葉が気に入った。
ここでの「あんた」は特定のyouではなく、不特定のyouである。
あんたなんて言葉、初めて使った。
でも爽快感を覚えた。
言い淀みの多い、普段の文章から離れたせいか、爽快感を覚えた。
ー
時には自分の文体から離れてみてもいいのかもしれない。
あんた、って、誰。
誰でもないあんただよ。
わかった気にならないでよ。
わからせてたまるかよ。
なーんてね。