Naegi

逍遥

印象に残っている本のこと

人生に大きな影響を与えた本、というものを考えた時に真っ先に浮かんだのがこの一冊。

岩波少年文庫から出版されているリンザー「波紋」だ。

 

児童書として出版されているものの、不明瞭な世界に対する鋭い直観といえばいいのだろうか、高い精神性というものが色濃く反映されている。

 

一言で言うと、南ドイツの僧院で過ごす多感な少女が、様々な人と触れ合いながら成長していく教養小説

一人称語りで語られているこの物語は、少女の鋭い感性のもとで描かれているので、やや激しい感情で物語られている。時期は6歳から青年期くらいだというのに。

作者は敬虔なキリスト教徒ということで、物語にはキリスト教の要素が強く、やや難解な箇所はあるものの、全面的にキリスト教の物語が描かれているといえば違う。

少女の鋭い感性が時に周囲の人間と摩擦を起こしつつも、悟りを目指す物語なのである。

 

具体的には、情緒を理解してくれない母と対立したり、規則で雁字搦めにされた寄宿舎を退寮したり。(確か、理由は仏像を部屋に置いていたことだっけ)

それでも、彼女が惹きつけられた人間は沢山いた。「わたし」の強い理解者だった祖父、優しい愛で人を包む叔母さん、綺麗で知的な教師。

確かに、世界は不明瞭だが、魅力的な人物によって彩られている。そして、最終的には噴水の波紋を見て、鋭い精神の法則性に気づくのだった…。「わたし」を突き動かすのは動物的な衝動ではなく、鋭い精神の法則なのだ…ということを悟ってこの物語は終わるのだが、これについてヘルマン・ヘッセは絶賛していたという。

 

小6の頃、この本を初めて読んだとき、強い衝撃を受けた。

最初、南ドイツのなだらかな丘陵を馬車で進み、僧院の門をくぐるのだが、その描写に見とれた。これほどきれいな描写があってよいのか、と。

 

しかし、穏やかな第一章とは対照的に、二番目の章「百合」では激しい「わたし」の気性が垣間見える。

美しい「百合」の花を惨めなほどまで千切ってしまうのだ。

百合の美しさに見とれているうちに、衝撃的な破壊欲に駆られた結果である。

この衝動に既視感を覚えて感動した記憶がある。

 

ほしいものに限って「要らない!」と意地を張ったり、自分のお気に入りのものを自分で壊したりとか、むかしは本当に天邪鬼で困ったことばかりしていて叱られてばかりいたのだ。

この気持ちは表現しようとしても出来なかったが、ようやくこの感情を言語化したものに出会えたので感動した。

 

この物語は非常に鮮烈な感情と、じめりとした感触で満ちているが、不思議と暗さは感じない。子ども時代の閉塞感や絶望、ここではないどこかへの幻想というものが事細かに描かれている。私も、同じような感情を感じていた。

 

本当に私の子ども時代にリンクする物語だったので、何度も読む作品となった。

 

今だったら、多少のことはインターネットで調べて何とかなるものだが、子どもの頃は世界のことが分からず、何もかもが不明瞭で怖かった。

そんな記憶を思い出させてくれるのがリンザーの「波紋」である。

 

いや~~これ本当に「岩波少年文庫」の小説かよ~~~と思うような作品なんだよね。

これを原文で読みたくで第二外国語としてドイツ語を履修した。

ドイツ語のテキストは手元にあるのだが、第一章で止まっている。

卒業するまでに読破するぞ、と意気込むものの、ドイツ語の文法が本当に抜け落ちているので、難しい。一時期、ドイツ文学を専攻するか迷ったっけ。日々、ドイツ語のテクストを読み進めていく気概は無かった…。

 

この物語に出会ったおかげで、「文学」をアカデミックな分野で研究してみたい、と思うようになった。趣味としてではなく、しっかり大学で学びたいと思わせてくれた一冊だ。

 

独文専攻ではないものの、しっかりとテクストと向き合うことは楽しいので、この1冊には感謝している…。

 

今回は、印象に残っている本、人生に大きな影響を与えた本について思いを馳せてみた。

 

 

 

ああ、ドイツ行きたい(´;ω;`)