「深夜特急、を読んだことがある人はいますか」
英語教師は問う。
私はゆっくりと手を上げた。
「〇〇さんしか読んだことがないのか…」
教師は少しがっかりしていた。
私は少し誇らしかった。他のクラスメイトは知らないのね、あのユーラシアの旅を、と
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高校時代の英語教師が教えてくれた話は、今でも心に残っている。
ヴェルヌの八十日間世界一周を検証する女性記者の話。ブロンテ姉妹について書いた卒業論文の話。
今思い返せば、先生は私の指導教員に似ている。
博覧強記で、少し皮肉っぽいところが、重なる。
夕方にきっちり帰り、家庭を優先するところも。
あの英語教師が教えてくれたことが、いまの研究内容に活きているのは言うまでもなく、豊饒な世界を垣間見れたことが幸せである。
私はむかしから旅行記が好きだ。
出不精だから。
旅行のガイドブック見るので十分!なんて言うひねくれた小学生だった。
インターネットを知ったころ、私は外務省のホームページや旅行サイトのフォートラベルを駆使し、各地の情報を収集していた。
ドイツと中央アジアに興味があったので、ひたすらドイツアルプスや中央アジアの草原を追い求めていた。
中学生の頃、梨木香歩のエストニア旅行記を読んだことをきっかけに、紀行を渉猟するように。
お気に入りは、村上春樹の『雨天炎天』、梨木香歩の『ぐるりのこと』(一部のみ紀行)である。
やはり、トルコから抜け出せないようである。
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高校生の頃、沢木耕太郎のユーラシア横断の夢に魅せられ、大学になってこの辺りのことを研究し始めた。
紀行文そのものも研究対象にしている。
結局、三子の魂百までなのかもしれない。
ここだけは私がすきな、一貫性である。
なんだかんだ、好きなものを研究しているのだなと本棚を見て思う。