Naegi

逍遥

極北に行きたい

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ちょっと前にフィンランドを訪れた。それも、ラップランドの北の方。旅程の半分以上が北極圏の旅だった。わたしの夢がひとつ叶った。北極圏を旅すること、である。

 

かつての戦争で灰燼に帰し、復興を遂げたロヴァニエミ。そこからさらに北上し、大きな湖のほとり、サーミの村で逍遥したわけである。短い時間にプランが凝縮されていたため、忙しなかったが、とても良かった。森と湖だけで構成された風景を眺めることができた。それだけでも大きな功績である。オーロラは…北を志向するわたしならまた見に行くだろう、と思って。

 

わたしの北志向はきっと、梨木香歩に由来しているのだと思う。これは数々のエッセイや旅行記を見ていて思うこと。梨木の文章に登場する地名を見ると、ハッとさせられる。わたしが行きたい場所って梨木によって決定づけられているのかと気付かされるから。

 

とはいえ、わたしは幼少期に北海道を何度も訪問していた関係で(親もある種の北志向があったのかもしれない)、北国の凛とした空気がとても好きだ。新千歳に降り立った時の、本州とは明らかに異なる空気、植生。わたしにとっての癒しは北国であった。

 

今回の旅は諸々のトラブルもあり、ほぼラップランドの森の探訪で終わった。ヘルシンキのへの字もない旅だったから、なかなか人に旅情を伝えられないのが悔やまれる。というのも、この北への志向は雑談ベースでしたくないから、という要らんプライドがあるから。とりあえず森に行って…リトリート?ですかね?と結論づける。だってわかりやすいんだもん……。

 

リトリートだったのか?と言われるとそうではないと思う。ソーシャルメディアから離れて焚き火を囲み、オーロラの出現を待ったり、ベリーを摘みながら森を歩いたり。そんな時間は確かに癒しだったが、北国を訪れたことにより、さらなる北への欲求が湧いてきたのである。人間、とどまるところを知らないものである。さらに北の!ウツヨキに行きたい!ヌオダムに行きたい!という気持ちを抑えつつ、帰国。旅行前に読んだ『サーミランドの宮沢賢治』を読み返す。ああ!もっと北に!行けるのだ!とさらに胸が弾んだ。多分、リトリートとかではない。地平を広げることは全然癒しではないからだ。

 

当該図書でも言及がある通り、極北であっても決して辺境と一蹴することは適切ではないのだ。そこには暮らしがあるから。確かに都市からは離れているけれども、トナカイ放牧を営むサーミの人たちが暮らしている。実際にサーミの方の家を訪問したが、本当にただ暮らしているのであった。いわゆるプリミティブに対する眼差しを投げかけるのは全く不適切である。

 

サーミ近現代史の概要、そしてファミリーヒストリーを聞く。観光客向けにビジネスを営むやり手の経営者だったが、観光客向けに誂えられた施設でもなく本当の民家だったため、とても良かった。家族の写真とか、台所の鍋とか。暮らしの延長を体験するのって実はかなり大事だと思う。

 

以前はマルタに短期間留学したときを思い出す。ホームステイして良かったと思う。完全にビジネスとして営んでいる(という人がほとんどと思う)ホストファミリーだったので、家族の動線とは切り離されていたが、それでも台所事情とか見るのはとても楽しかった。夜のダイニングで窓の景色を眺めながらご飯を食べる。なんか英語は通じるようで通じなかったけれど、暮らしに近いところにいてわたしはとても満足したのである。

 

だから今回のラップランド探訪も暮らしを体感できたところが良かった気がする。サーミの博物館にも訪れたし、森林の事情にも詳しくなれたし(蟻塚はコンパスとして機能するらしい!なぜなら太陽を向くから)、知恵を色々授かることができた。もちろん観光向けのパッケージであることは承知しているが。

 

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本当にフィンランドは湖が多い。東山魁夷フィンランドの湖と森を描いていた気がする。フィンランドに来たというのに魁夷の絵画を思い出すしたときのこと。オーロラは観測できなかった。

時期が悪かったかも。

 

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意味もなくサンタクロース村の針葉樹の写真を撮った。ロヴァニエミに降り立ってびっくりしたのだが、木々の香りが豊穣なのだ。サンタクロース村は市街地よりも空港に近い。

 

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アアルト設計の美術館は現在改修中とのこと。ロヴァニエミ市街地もアアルトが設計した。空から見るとトナカイ型の路地となっている。それに着想を得た作品を作ったお爺さんと話した。確かにトナカイでしたね。

 

ロヴァニエミ市街地は徒歩で一周できる。どことなく旭川を彷彿とさせる街。極北の玄関口である。

 

カメラロールを見返すと、あんまり写真という写真がない。それもそのはず、森と湖の景色ばかりだからである。ピクチャレスクな写真は撮れなかったが、北の空気は存分に味わうには良い旅だった。ロヴァニエミから北上すると徐々に木々の背が小さくなるのですよ!そんな事実を目撃できてわたしはとても嬉しかった。

 

もっと北に行って、地衣類の広がる荒涼としたツンドラ地帯にも行きたい。完全に極北にロックオンされた旅だった。手軽なところで、まずは北海道行こうかな。ブラキストン線を越え過ぎている気もするが。